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岡山地方裁判所 昭和40年(行ウ)13号 判決 1973年3月01日

岡山市磨屋町三番一七号

原告

興栄企業組合

右代表者代表理事

井上太郎

右訴訟代理人弁護士

豊田秀男

嘉松喜佐夫

岡山市天神町三番二三号

被告

岡山税務署長

久保亨

右訴訟代理人岡山地方法務局訟務課長

門阪宗遠

大蔵事務官 渡辺岩雄

大蔵事務官 吉富正輝

大蔵事務官 岸田雄三

大蔵事務官 中本兼三

大蔵事務官 石田金之助

大蔵事務官 広光喜久蔵

大蔵事務官 広津義夫

大蔵事務官 藤田敏雄

大蔵事務官 水平栄一

右当事者間の昭和四〇年(行ウ)第一三号更正決定取消等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

1  請求の趣旨

一  被告が原告に対し昭和四〇年五月三一日付でした昭和三八年一〇月一日から昭和三九年九月三〇日までの事業年度の法人税の更正および過少申告加算税賦課決定(被告が昭和四〇年七月一七日付でした再更正および過少申告加算税賦課決定によつて取消された部分を除く。)をいずれも取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

2  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

1  請求原因

一  原告は理美容器具材料の販売等を業とする企業組合であるが、昭和三八年一〇月一日から昭和三九年九月三〇日までの事業年度(以下本件事業年度という。)の法人所得につき、昭和三九年一一月三〇日被告に対し所得金額一三四万〇八二三円、控除税額一万八一八二円、法人税額四二万四二〇〇円として確定申告した。

二  これに対し被告は原告組合に対し昭和四〇年五月三一日付で所得金額九五八万五五八九円、超過留保金額三四九万八七〇〇円、控除税額一万八一八二円、法人税額三八二万四一七〇円の更正および過少申告加算税一六万九九五〇円の賦課決定をした。

三  原告組合は右処分にいずれも不服なので昭和四〇年六月二六日広島国税局長に対し審査請求をなしたが、その審査中に被告は原告組合に対し同年七月一七日付で前記超過留保金額を取消し、所得金額九五八万五五八九円、控除税額一万八一八二円、法人税額三四七万四三〇〇円とする再更正および過少申告加算税一五万二五〇〇円とする賦課決定をなし、その後広島国税局長は同年九月二四日審査請求を棄却する旨の裁決をした。

四  しかし被告がなした前記二の更正および過少申告加算税賦課決定(前記三の再更正および過少申告加算税賦過決定で取消された部分を除く。以下同じ。)は、原告組合の「宝椅子」の割賦販売差益につき割賦基準を適用しなかつた違法があるので、いずれもその取消を求める。

2  請求原因に対する答弁

請求原因一ないし三の事実をいずれも認め、同四を争う。

3  抗弁

一  (主位的主張)

(1) 原告組合は昭和三八年一二月一二日宝椅子販売株式会社(以下訴外会社という。)との間で次の内容の特売契約を締結した。

イ 原告組合は岡山県理容環境衛生同業組合(以下訴外組合という。)とともに訴外会社のためにその指定する小売価格で訴外組合に加入している理容業者に対する宝椅子の販売を斡旋する。

ロ 訴外会社は右斡旋によつて宝椅子の購入契約が成立したときは原告組合に対し契約高に応じて小売価格と卸売価格(通常の卸売価格よりさらに五%控除したもの)との差額を販売手数料として支払い、原告組合はそのうちから訴外会社に対し同会社が訴外組合に支払うべき販売手数料、経費等を支払う。

原告組合は右特売契約に基づき昭和三八年一二月二〇日から昭和三九年六月一八日までの間に総額五〇〇〇万円におよぶ宝椅子の販売斡旋を行ない、訴外会社から昭和三九年五月二日に六四二万二七一〇円、同年一一月一四日に四六九万三二五一円合計一一一一万五九六一円の販売手数料を受取つた。

(2) ところが原告組合は本件事業年度の益金に右販売手数料のうち二八五万八五三五円のみを計上した。

(3) しかし原告組合が受取つた一一一一万五九六一円は割賦販売差益でなく販売手数料であるところ、これは全額本件事業年度に収受することが確定した収益であるから、残額八二五万七四二六円も本件事業年度の益金に計上すべきである。

(予備的主張)

(1) 原告組合は昭和三八年一二月二〇日から昭和三九年六月一八日までの期間中宝椅子の割賦販売を行ない、同年五月二日六四二万二七一〇円、同年一一月一四日四六九万三二五一円、合計一一一一万五九六一円の差益を得た。

(2) ところが原告組合は本件事業年度の益金に右割賦販売差益のうち二八五万八五三五円のみ計上した。

(3) しかし原告組合が得た割賦販売差益は割賦基準を適用するため必要とする二つの条件すなわち当該事業年度において割賦販売をしたすべてのたな卸資産について割賦基準の方法により経理することおよび割賦基準採用後の各事業年度において継続適用することの二条件を具備しておらず、全額本件事業年度に収受することが確定したものであるから、残額八二五万七四二六円も本件事業年度の益金に計上すべきである。

すなわち、原告組合は、

イ 宝椅子以外の割賦販売商品に割賦基準を適用していない。

ロ 昭和三三年一〇月一日から昭和三四年九月三〇日まで、同年一〇月一日から昭和三五年九月三〇日までの二事業年度において割賦基準を適用したが、その後継続して適用していない。

二  そこで被告は昭和四〇年法律三四号による改正前の法人税法(以下単に法人税法という。)、国税通則法の定めるところに従い、次のとおり所得金額、法人税額および過少申告加算税額を算定した。

(1) 原告組合が確定申告した所得金額一三四万〇八二三円に対し、

イ 販売手数料(割賦販売差益) 八二五万七四二六円

ロ 減価償却超過額 六万八二九〇円

ハ 過納事業税額 三万五七二〇円

ニ 法人税還付加算金 五五七〇円

をいずれも加算し、

事業税額(前事業年度の所得に対するもの) 一二万二二四〇円

を減算し、本件事業年度の所得金額九五八万五五八九円を算出した。

そして右所得金額に対する法人税額三四九万二四九〇円を算出したのち、

控除税額 一万八一八二円

を減算し、法人税額三四七万四三〇〇円を算出した。

(2) 次に右法人税額から原告組合が確定申告した法人税額四二万四二〇〇円を減算した残額三〇五万円によつて過少申告加算税額を算出した。

三  従つて被告がなした本件更正および過少申告加算税賦課決定(以下本件課税処分ともいう。)はいずれも適法な処分である。

4  抗弁に対する答弁

一  抗弁一の主位的主張をすべて否認し、予備的主張中、原告組合が宝椅子の割賦販売をして得た差益のうち八二五万七四二六円を本件事業年度の益金に計上していないこと、被告が右割賦販売差益につき割賦基準を適用するために必要とすると主張する二条件をいずれも具備しておらず、原告組合が被告主張のイ、ロのとおりの経理をしていることを認めるが、その余は争う。割賦販売においてはその差益はそれぞれの割賦金の支払期日に発生するものであるから当該事業年度に支払期日の到来する割賦金についての差益を右事業年度の益金に計上すべきものである。

二  仮に被告主張のとおり割賦基準の適用がないとすれば抗弁二記載の各項目の数額が被告主張のとおりとなることを認める。

5  再抗弁

(抗弁一の主位的主張に対し)

(1) 被告が本訴において抗弁一の主位的主張をすることは信義則に反し、許されない。すなわち原告組合はこれまで何年間かにわたり本件と同様な割賦販売を行なつてきたが、被告はこれに対し割賦基準の適用を受けるよう税務指導をし、現にこれまで二、三回割賦基準の適用を受けてきた。このため原告組合は本件も割賦基準の適用があると信じて疑わず、従前とおりの形式と内容に従つて申告した。広島国税局長も原告組合のなした請求原因二記載の審査請求に対し、原告組合は割賦販売のうち四〇三〇万一二五〇円相当の取引についてのみ割賦基準を適用し、その余の一四〇〇万円相当の取引についてこれを適用しないで申告したという理由で棄却の裁決をした。しかるに被告は本訴において突如これまでの被告の取扱いないしは広島国税局長の裁決理由と全く矛盾し、両立しえない前記主張をした。被告のかかる主張は課税の安定を害し、信義則に反するものである。

(抗弁一の予備的主張に対し)

(2)イ 被告が抗弁一の予備的主張で主張する割賦販売に割賦基準を適用するために必要な二条件は大蔵省が課税の便宣から定めたものであり、無効である。

ロ 仮にそうでないとしても被告はこれまで右二条件の具備について寛大であつた。

6  再抗弁に対する答弁

(1)  再抗弁(1)中、広島国税局長が原告組合のなした審査請求をその主張する理由で棄却する裁決をしたことは認める。

(2)  同(2)イを争う。

第三証拠

1  原告

一  甲第一、第二号証を提出し、証人小栗円導、同安井樟夫、同山崎正夫、同矢野義雄の各証言および原告代表者本人尋問の結果(第一ないし第三回)を援用した。

二  乙第九号証の一、二の成立(原本の存在とも)は不知、その余の乙号各証の成立(乙第一〇号証の一ないし三から第一二号証の一ないし四までは原本の存在とも)は認めると述べた。

2  被告

一  乙第一ないし第八号証、第九号証の一、二、第一〇一一号証の各一ないし三、第一二号証の一ないし四、第一三号証を提出し、証人猪木益人、同阿部栄一、同広光喜久蔵の各証言を援用した。

二  甲号各証の成立を認めた。

理由

1  請求原因一ないし三の事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  そこで抗弁一(主位的主張)について以下検討する。

一  成立に争いのない甲第二号証、乙第一(後記認定に反する部分を除く。)、三(前同)、四、五、六(前同)、七(前同)、八号証、証人広光喜久蔵の証言によつて原本の存在および成立を認める乙第九号証の一、二、原本の存在および成立に争いのない乙第一〇、一一号証の各一ないし三、第一二号証の一ないし四、成立に争いのない乙第一三号証(前同)および証人安井樟夫、同山崎正夫、同小栗円導(前同)、同矢野義雄の各証言、原告代表者本人尋問の結果(第一ないし第三回)ならびに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができ、証人猪木益人、同阿部栄一、同広光喜久蔵の各証言ならびに前顕乙第一、三、六、七、一三号証および証人小栗円導の証言中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比してたやすく措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(1)  原告組合は井上営業所、大森営業所、古川営業所、佐藤営業所に分かれ、それぞれ理美容器具材料販売、古道具工具等販売、理髪業、電気製品販売取付工事を行なつているが、右事業のうちでは原告組合の代表者井上太郎が経営責任者となつている井上営業所の理美容器具材料販売が最も大きな事業であり、本件事業年度でも総売上高の九〇%を占めている。右原告組合井上営業所は原告組合として法人化する以前の戦前から、訴外会社から理髪用椅子の「宝椅子」を始めとする理美容器具材料を仕入れ、岡山県下を中心として理美容業者に販売し、昭和三八年当時県下では同社製品を取扱う最大の販売店であつた。

(2)  原告組合と訴外会社とは、前記宝椅子の販売について原告組合が訴外会社から仕入れて理容業者に小売する従来の販売方式では当時新しく売出された電動式椅子がこれまでの手動式椅子に比較して高価であつたこともあつて販売量の拡大に限界が見えたことから、理容業者で組織する訴外組合とあらためて提携し、岡山県下の他の訴外会社製品の販売店も含めて、長期分割弁済が可能な金融機関からの借入金を利用することによつて宝椅子を大量に販売することを企画考案した。

(3)  右新販売方式は特売と称され、昭和三八年一二月頃これを実施するための契約が訴外会社、原告組合などの小売店、訴外組合の間で締結され、同年一二月二〇日から昭和三九年六月一八日までの間宝椅子の特売が大々的に実施された。この特売の内容は次のようなものであつた。

イ 原告組合その他の小売店は訴外会社と協力して個別に訴外組合に加入している得意先の理容業者に訴外会社が指定する小売価格で宝椅子の売込みを行ない、これが奏効すると訴外会社において納品するが、原告組合が取扱つたものについては場合によつては原告組合が納品した。

ロ 購入理容業者は宝椅子の購入代金をその後三六回月賦で支払うが、その加入している訴外組合は訴外会社、原告組合などとの間であらかじめ立案された借入計画に従い、組合員の購入台数がある程度まとまる都度訴外会社および原告組合の保証のもとに商工組合中央金庫その他の金融機関から購入代金総額を目途とした金額を借入れ、これを訴外会社あて送金する。

ハ 訴外組合と購入組合員との間で購入組合員が訴外組合から前記購入代金相当額の借入金の転貸付を受けた形式をとり、購入組合員が訴外組合に対し三六回月賦による分割返済を約する旨の公正証書を作成するが、購入組合員からの月賦金の集金は原告組合その他の小売店の責任において行ない、このため原告組合の場合には訴外組合に三六回月賦払いの購入代金(金利を含めたもの)に相当する額面の約束手形を交付するとともに、購入組合員から集金する都度これを訴外組合へ支払つて前記手形の決済をしたが、集金不能分があるときは原告組合が負担することとされていた。

ニ 宝椅子を納入するとともに原告組合その他の小売店と購入組合員との間で購入組合員が訴外組合から宝椅子を三六回月賦払いで購入した旨の月賦払購入契約書を作成するが、訴外組合はその作成に関与せず、右契約書の保管も原告組合その他の小売店がなし、会計帳簿上原告組合が訴外会社から仕入れて購入組合員に小売販売した形で記帳処理する。

ホ 原告組合その他の小売店はその取扱高に応じて訴外組合が商工組合中央金庫などの金融機関から借入れて訴外会社に送金したのち、或は場合によつては送金する際原告組合にあつては訴外会社の指定する小売価格と卸売価格(通常の卸売価格より電動式椅子の場合四%、手動式椅子の場合一〇%をさらに控除した額との差額をリベートとして受取り、購入組合員から下取り椅子がある場合には原告組合がその責任において処理し、その他の小売店にあつては原告組合とは異り販売した椅子の種類ごとに決められた一定の手数料を受取る。

ヘ 訴外会社と原告組合とは折半して訴外組合に対し一定のリベート、経費等を支払う。

(4)  こうした特売方式によつて前記期間中に販売された宝椅子は原告組合が取扱つたものだけで総額約五〇〇〇万円にのぼつた。しかし原告組合は特売期間中に得ることが確定した前記リベートのうち八二五万七四二六円を本件事業年度の益金に計上しなかつた。

以上のとおり認められる。

二  右認定によれば少なくとも原告組合の本件宝椅子特売については、従前からの原告組合と訴外会社との関係、特売に至る経緯、特売において原告組合の占める役割、責任の内容程度、原告組合の収受する利益の幅、代金回収の時期方法等にかんがみ、原告組合は単に訴外会社と購入理容業者との間の割賦販売契約の斡施をしたにとどまるものとはなし難く、むしろ販売の主体としての実質を有し、原告組合と理容業者との間で割賦販売が行なわれたとみるのが相当である(前顕乙第三号証中の原告組合は宝椅子販売の取次斡施によつて手数料を得た旨の記載はいまだ右の如く解するのを妨げるものではない)。

しかしながら本件特売は三六ケ月間に分割して支払われる購入代金の総額に相当する金額が割賦販売契約成立後一括して訴外会社に入金され、原告組合が販売差益に相当するリベートを収受する点において通常の割賦販売と異なるものがある。そこでさらに本件特売によるリベート収入に割賦基準を適用しうるか否かにつき検討する。

法人税法は課税標準となる所得を計算するにあたつていかなる収益をその事業年度の益金に計上すべきであるかについて一般に規定するところがなく、このためその基準を一般的に公正妥当と認められる会計処理の基準に委ねたものと解されてきた。昭和四二年法律二一号による改正後の法人税法二二条四項は右趣旨を明文をもつて規定したものである。そして右会計処理基準においては原則として対外的に成立実現した取引による収益のうちで当該事業年度に商品の引渡などの給付がなされることによつて確定したと認められるものを右事業年度の益金に計上すべきものとされ、例外的に割賦販売に係る収益についてはそれぞれの割賦金が入金したときにその事業年度の益金に計上すべきものとされている。(その収益に対応する費用もその事業年度の損金に計上するものである)。同様に益金の計上時期に特例が認められているものに長期請負工事がある。前記割賦販売に係る収益についてかかる特例が認められた所以は商品代金の支払が長期間にわたつて分割してなされるため、代金回収が不能となる危険が高く、所有権の移転又は取戻に関する条件も複雑であるため、収益の確認を慎重になす必要があることにある。従来税務計算においてもこうした会計処理の基準を尊重し、割賦販売に係る収益、費用については割賦基準の適用と称して当該事業年度に支払期日の到来する割賦金およびそれに対応する費用をそれぞれ右事業年度の益金、損金に計上する取扱いが行なわれてきたが、割賦販売の実態に着目するならばそれによつて得られる利益のもたらす担税力が時間的に長期にわたつて制約されていることは否み難いところであり、課税力も十分な合理性を有する取扱いであるといえる。昭和四〇年法律三四号による改正後の法人税法六二条はこうしたこれまでの取扱いを是認するとともに、その適用の限界を明らかにしたものである。

いま叙上の観点から本件特売を検討するならば、なるほど原告組合は割賦販売差益に相当するリベートを割賦販売が成立実現したのち遠くない時期において受入れているが、それは実質的には借入金であり、真実の利益は長期間にわたつて分割して収受するものとみることができ、これによつてもたらされる担税力は時間的に長期にわたつて制約されているということができる。そうしてみると本件特売によるリベート収入も割賦基準を適用しうる実質を有しているものといいうる。

従つて被告の主位的主張は理由がない。

3  そこで次に被告の抗弁一(予備的主張)について検討する。

原告組合が前記認定の本件特売によるリベート収入一一一一万五九六一円のうち八二五万七四二六円を本件事業年度の益金に計上しなかつたこと、右収入につき被告が割賦基準を適用するために必要であると主張するその予備的主張(3)イの条件を具備していないことは当事者間に争いがない。

4  再抗弁(2)について以下検討する。

先ず再抗弁(2)イの主張について判断する。前記イの条件は前記改正法人税法六二条によつて初めて法定されることとなつたものであるが、証人阿部栄一の証言および弁論の全趣旨によれば、通達により右条件は従来の課税実務においても割賦販売商品に割賦基準を適用するうえで必要とされていたものであることが認められるところ、これが必要とされる所以は、多数の商品の割賦販売をした法人がそのうち一部についてのみ割賦基準を適用し、他のものについてはこれを適用しない扱いが許されるならば、その事業年度の所得の計算が不統一となるし、さらには収益が少ないか、或いは損失を生じたものには割賦基準を適用せず、収益の大きいものに割賦基準を適用するなどその選択方法のいかんによつて不当に課税を免れるといつた事態も生じかねないことにあり、通達による前記課税実務の態度は是認さるべきものである。

次に再抗弁(2)ロの主張について、被告はこれを明らかに争わないので自白したものとみなす。しかし従前被告が前記条件の具備に寛大であつたとしてもその一事をもつて本件特売のリベート収入に割賦基準を適用するにあたつて右条件の具備を要しないとまではなし難い。

5  そうすると原告組合の本件特売によるリベート収入八二五万七四二六円は本件事業年度の益金に計上すべきものである。この場合に抗弁二記載の各項目の数額は当事者間に争いがなく、その計算関係は正当であるから、本件課税処分はいずれも適法な処分である。従つて原告の本訴請求はいずれも理由がない。

6  以上の次第で原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中原恒雄 裁判官 松尾政行 裁判官 渡辺温)

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